Nasdaq「時価総額$5M」即時上場廃止ルールとは?承認・効力停止と日本企業への影響
猶予期間のない上場廃止
Nasdaqの継続上場基準に違反した場合、通常は通知を受けてから180日の改善期間が与えられ、改善計画を提出して上場維持を図ることができます。2026年7月22日にSEC(取引市場部の委任権限による決定)が承認した新ルール(Rules 5450(a)(3)・5550(a)(6))は、この常識を覆すものです。
内容は、上場証券時価総額(MVLS:終値ベースの買気配×上場株式数)が$5Mを30営業日連続で下回った場合、Nasdaqは改善期間を設けずに直ちに上場廃止決定を出し、取引を停止するというものです。ヒアリング・パネルへの不服申立ては可能ですが、申立てをしても取引停止は解除されません。パネルが例外的に最大180日の猶予を与えることはできますが、その間に「継続基準」ではなく「新規上場基準」を満たすことが条件です。
二転三転した経緯
このルールは2025年9月にNasdaqが提案し、いったんは同年12月の修正で削除されました。2026年1月に単独の継続上場基準として再提案され、SECは4月に審査手続を開始して追加の意見募集を実施。6月にはNasdaqが180日の例外規定を加える修正を提出し、7月22日に承認されました。ところがその一週間後の7月29日、SEC委員会本体への審査申立て(notice of intention to petition for review)が提出されたことで、効力は自動的に停止。本稿執筆時点(2026年9月)でも停止状態が続いています。
SECの承認理由の一つは、Nasdaq側の分析で「MVLSが$5Mを下回った企業の65%は180日後も$5M未満(中央値$3.7M)」だったことです。一方、反対意見は「機械的な閾値と自動的な取引停止は、むしろ閾値付近の企業を狙った相場操縦を誘発する」というものでした。
日本企業にとっての現実
日系のNasdaq上場企業には、公開価格から大きく下落し、時価総額が数百万ドル台にとどまる銘柄が少なくありません。株式併合で株価基準を回復しても時価総額は増えないため、このルールが発効すれば影響は直接的です。しかも2025年1月の規則改正で、併合を繰り返しての株価維持にも制限がかかっています。
会計士の立場から申し上げると、対策は「上場後」ではなく「上場前」にあります。①最低調達額と上場後の時価総額シナリオの整合、②上場後12〜24か月の追加調達手段(フォローオン、一括登録)の確保、③万一の際のOTC市場への移行を含む出口の設計です。「上場を維持できるか」を、上場の可否と同じ重さで検討する必要があります。
FPI企業への適用・影響
【直接適用】Nasdaqの継続上場基準はFPIにも適用されます。$5M MVLSルールは2026年7月22日に承認されたものの、7月29日からSEC委員会のreviewに伴い効力停止中で、本稿執筆時点では発効していません。
参考:SEC承認命令(2026年7月22日)、各社SEC提出書類(Form 10-Q・424B、2026年8月)、Honigman LLP「SEC Approves New $5 Million Market Value of Listed Securities Requirement」(2026年7月)
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執筆者:森 大輔(公認会計士・公認不正検査士)
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