BF Borgers事件から学ぶ米国監査法人の選び方 — 「PCAOB登録」だけでは足りない理由
何が起きたのか
2024年5月3日、SECは監査法人BF Borgers CPA PCとその代表者に対する処分を公表しました。2021年1月から2023年6月までの1,500件超のSEC提出書類に含まれる監査・レビューについて、PCAOB基準への意図的かつ組織的な不遵守と監査調書の捏造を認定し、法人に$12M、代表者に$2Mの制裁金を科したうえで、SECへの出頭・実務を永久に禁止したのです。SECはこの法人を「sham audit mill(見せかけの監査工場)」と表現しました。
SECの命令によれば、対象期間にBF Borgersの監査・レビューが組み込まれた公開提出を行った顧客は369社で、関係するSEC提出書類は1,500件を超えました。処分後、顧客企業は新たな監査人への交代や、必要に応じた再監査・レビュー、提出書類の更新対応を迫られました。登録手続中の企業では上場スケジュールへの影響も生じ得るため、監査人選定が案件日程に直結することを示した事件といえます。
「登録」と「品質」は別物
押さえておきたいのは、BF BorgersはPCAOB登録監査法人であり、検査の対象でもあったという事実です。登録は市場に参加するための入場券にすぎず、監査品質を保証するものではありません。
PCAOBの検査は、発行体クライアントが100社を超える法人は毎年、それ以外は3年に1回です。検査報告書のPart I.Aは「十分かつ適切な監査証拠を入手できなかった」重要な不備、Part I.Bはその他の基準不遵守、Part IIは品質管理システムの欠陥を扱います。Part IIは報告書発行時点では非公開で、12か月以内に改善が認められなければ公開されます。公開済みのPart IIがある法人、直近の検査でPart I.Aの不備率が高い法人は、それだけで要注意です。
2026年のチェックリスト
BF Borgers事件以降、監査人選定で確認すべき項目は増えました。
- PCAOB検査報告書(Part I.A・Part II)と、SEC・PCAOBの処分歴・係争中の案件
- 発行体クライアントの数と構成(特定の引受会社との組み合わせが固定化していないか)
- 監査意見形成のスピードと、EQR(審査担当者)を含む人員体制
- 業界再編後の実体(Friedmanは2022年にMarcumへ、Marcumは2024年11月にCBIZへ統合。2023年時点の米国上場企業監査ランキング上位の名称は現存しません)
さらに2025年12月に導入されたNasdaq IM-5101-3により、監査人の質そのものがNasdaqの裁量判断の要素になりました。監査法人の選定は、いまや上場審査の一部です。手数料の安さで選んだ監査人が後に問題を抱えれば、再監査・遅延・信認の毀損という形で、案件で最も高い費用になります。
FPI企業への適用・影響
【直接関係】FPIの財務諸表について監査報告書をSEC提出書類に含める場合も、PCAOB登録・適格性と監査品質の確認が重要です。FPIであることを理由に監査人選定リスクが軽くなるわけではありません。
参考:SEC Press Release 2024-51(2024年5月3日)、SEC Exemptive Order(2024年5月20日)、PCAOB「Staff Update on 2024 Inspection Activities」(2025年3月)
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執筆者:森 大輔(公認会計士・公認不正検査士)
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