【米国上場実務】de-SPACの会計と監査 — 逆取得・前身企業(predecessor)・PCAOB監査
法的な買収者と会計上の取得企業は別
de-SPACでは、法形式上はSPACが対象会社を取得しますが、会計上の取得企業を判定すると、通常は対象会社の株主が統合後の議決権の過半を握り、経営陣も対象会社側が占めるため、対象会社が取得企業になります。SPACは現金以外に事業を持たない「空箱」であり、会計上の「事業」に該当しないため、取得は企業結合ではなく資本取引として処理されます。これがリバース・リキャピタリゼーション(逆取得による資本再構成)です。
この処理では、対象会社の過年度の財務諸表がそのまま上場会社の財務諸表になり、SPACの純資産(主に信託口座の現金)は帳簿価額で引き継がれます。のれんは生じず、1株当たり利益は統合比率で遡及修正されます。反対に、稀にSPACが会計上の取得企業と判定されれば、対象会社の資産・負債を公正価値で評価し、のれんを計上する通常の企業結合会計になります。判定は統合条件(株式比率、取締役構成、大株主の有無)によって変わるため、契約交渉の段階で会計上の帰結を確認しておく必要があります。
「前身企業(predecessor)」の財務諸表とPCAOB監査
登録届出書では、統合後会社の前身企業(predecessor)となる対象会社の財務諸表が中心になります。2024年のSPAC規則で新設されたRegulation S-X Article 15では、前身企業として扱われる対象会社の財務諸表はPCAOB基準で監査される必要があります。必要な年数は一律ではなく、たとえばSPACと対象会社の双方がEGCに該当する場合には、一定の要件の下で2期分の監査済財務諸表を用いることができます。統合完了後の報告も発行体区分で異なり、米国国内発行体ではForm 8-K、FPIとなるシェル会社ではForm 20-Fが用いられます。
de-SPAC特有の会計論点
ワラントは、2021年4月のSECスタッフ声明以降、条件次第で負債として公正価値評価し、損益に変動を計上する処理が求められます。株価条件付きのアーンアウト株式も、負債か資本かの分類で損益への影響が大きく変わります。スポンサーがPIPE投資家に譲渡する株式は費用計上の要否を検討します。IFRSを採用する場合には、SPAC株主に発行した株式の公正価値がSPACの純資産を上回る部分を「上場サービスの対価」として費用計上する(IFRS 2)論点があり、統合期に多額の損失が計上されることがあります。
日本企業の実務:組替えと監査人の並走
対象会社が日本企業であれば、まず米国提出用の会計基準を確定します。米国国内発行体であればUS GAAPが基本となり、FPIとして適格な発行体はIFRS as issued by the IASBを用いることでUS GAAPへの調整表を付さずに提出できる選択肢があります。必要な比較年度の財務諸表を作成し、PCAOB基準の監査を受けることが準備の中心です。組替えでは、収益認識、株式報酬、リース、税効果、関連当事者取引等が主要論点になります。
FPI企業への適用・影響
【直接関係】FPIとなる統合後会社でも、前身企業のPCAOB基準監査は重要です。FPIとして適格であればIFRS as issued by the IASBをUS GAAPへの調整なしで使用でき、統合後はForm 20-F/6-Kの開示体系を利用できます。
参考:ASC 805「Business Combinations」、IFRS 3・IFRS 2、SEC Staff Statement on Accounting and Reporting Considerations for Warrants Issued by SPACs(2021年4月12日)、SEC「Financial Reporting Manual」Topic 12、Regulation S-X Article 15
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執筆者:森 大輔(公認会計士・公認不正検査士)
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