OTC市場とNYSE・ナスダックの違い — アップリスティングという成長戦略
「取引所」と「店頭市場」の本質的な違い
NYSE・ナスダックは、SECに登録された「全国証券取引所」であり、上場企業にはSECへのフル登録、SOX法対応(内部統制監査を含む)、取引所ごとのガバナンス基準が適用されます。一方、OTC市場は取引所ではなく、マーケットメーカーが気配値を提示する店頭市場です。この違いについて、OTC Markets Groupは公式ブログで次のように述べています。
“Unlike the exchanges, there are no Sarbanes-Oxley and SEC Reporting requirements to trade on OTCQX — helping to remove trading restrictions and alleviating the burdensome, costly and duplicative exchange requirements.”
(訳)取引所とは異なり、OTCQXでの取引にはSOX法(サーベンス・オクスリー法)対応やSEC報告の要件がありません。これにより取引上の制約が取り除かれ、負担が重く、コストがかさみ、(本国と)重複する取引所要件が軽減されます。
出典: Benefits of Cross-Trading in the U.S.(OTC Markets公式ブログ・2018年8月)
OTC市場と取引所の比較
日本の上場企業の視点で、OTCQXとNYSE・ナスダックを比較すると次のようになります。
| 比較項目 | OTC市場(OTCQX) | NYSE・ナスダック |
| 法的位置づけ | 店頭市場(SEC登録のATS上の取引) | SEC登録の全国証券取引所 |
| SEC登録 | 不要(12g3-2(b)免除を利用可能) | フル登録(Form 20-F等)が必要 |
| SOX法対応 | 不要 | 必要(内部統制監査を含む) |
| 会計基準 | 本国基準(日本基準・IFRS等)の英訳で可 | US GAAPまたはIASB版IFRS |
| 監査人 | 本国監査人で可(12g3-2(b)ルート) | PCAOB登録監査人が必須 |
| 年間コスト | 市場利用料は数万ドル規模 | 維持コストは数百万ドル規模に達する例も |
| 流動性・知名度 | 限定的(銘柄による差が大) | 高い。指数組入れ・機関投資家の投資対象 |
取引所に比べ流動性・知名度・指数組入れの面では見劣りするのも事実です。機関投資家の中にはOTC銘柄への投資を制限する運用方針を持つ先もあり、資金調達力には差があります。他方、流動性への効果についてOTC Markets Groupは次のようなデータを公表しています。
“On average, companies experience a home market liquidity increase of 26% and an OTC Market increase of 67% after joining the OTCQX Market.”
(訳)平均して、OTCQX市場への参加後、企業の本国市場での流動性は26%、OTC市場での流動性は67%増加しています。
出典: Benefits of Cross-Trading in the U.S.(OTC Markets公式ブログ・2018年8月) (2018年時点の公表データ)
アップリスティングという選択肢
こうした特性を踏まえ、米国では「まずOTCで実績を作り、要件が整った段階でナスダック等へ移行する」というアップリスティング戦略が確立しています。OTCQXでの取引実績・株価・株主基盤は、取引所の上場審査における定量基準(株価、時価総額、株主数等)の充足に直結します。OTC時代から米国投資家とのIRを積み重ねておけば、取引所上場時の価格形成にも好影響が期待できます。
段階的な体制整備がカギ
アップリスティングを見据える場合、会計・監査面では、PCAOB登録監査人による監査への移行、US GAAP/IFRS対応、内部統制(ICFR)の整備を段階的に進めておくことが重要です。OTC登録の時点から「将来どの市場を目指すのか」を定め、逆算して開示・監査体制を設計することで、移行時のコストと時間を大幅に圧縮できます。
米国資本市場への挑戦は、一足飛びの取引所上場だけが道ではありません。自社に合った市場選択にお悩みがあれば、お気軽にSMASH & Partnersへお問い合わせください。
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執筆者:森 大輔(公認会計士・公認不正検査士) 代表ご挨拶 | NASDAQ上場・ガバナンス・監査を支援する会計アドバイザリー | SMASH & Partners 合同会社
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