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外資系企業における会計士監査の特有論点

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2024年05月19日 | Column

 ご無沙汰しております。ここ2,3日はぐっと暑くなってきました。

 さて、今回のお題は「外資系企業における会計士監査の特有論点」です。外資系企業といっても今回は前回ご紹介した「リファーラル監査」における特有論点をご紹介します。外資系企業のリファーラル監査となると業界全体ではかなりニッチな分野になりますが、あまり世間に知られていないことで市販されている本もないですし、リファーラル監査の対応や考えに悩まれる経理関係の方もおられると思います。
 外資系企業におけるリファーラル監査を考える上で大事なポイントは、親会社側と子会社側につく監査人・監査法人が如何にうまくキャッチボールして、ボールをどちらが持つかを明確にする、ということです。
 
 ・繰延税金資産の検討:繰延税金資産については資産性の評価をする必要があります。将来回収できるかどうか、ですね。当該回収可能性の評価をするにあたっては各会社ごとにやることが通常ですが、グループ全体として回収可能性を評価することもあり(その方が効率的)、親会社が子会社分をまとめて評価することがあります。その場合、子会社においては親会社が行った回収可能性評価の結果をもらい、子会社で計上する繰延税金資産の回収可能性は問題ないと結論付けることがあります。子会社の監査人・監査法人は親会社で既にグループ全体の繰延税金資産の回収可能性評価が完了しているため、子会社に対して監査手続をする必要はありません。

 ・固定資産の減損会計:上記繰延税金資産と同様な考えです。固定資産の減損を検討するにあたっては減損の兆候と兆候があった場合の減損を認識・識別(GAAPで一部異なる)する必要がありますが、親会社がグループ全体でその判定をしている場合があります。この場合、子会社では減損の検討は不要となり、また、子会社の監査人・監査法人でも減損への検討手続きが不要となる場合があります。

 ・グループ間取引:ローカル単独で行う例えば会社法監査や上場監査と異なりリファーラル監査では、親会社の連結財務諸表作成のために行われます。そのため、子会社が有している親子間取引についてはグループ間で相殺されることが確認できれば問題ありません。当該グループ間取引や債権債務残高について親会社がまとめて取り仕切り、親会社の監査法人が当該取り仕切った結果を監査する場合、子会社の方では当該グループ間取引・残高について監査をする必要がなくなる場合があります。

 ・退職給付会計:退職給付会計の基本的仕組み(確定給付の場合)は退職給付債務と年金資産のネットです。当該退職給付債務と年金資産の金額を親会社がまとめて管理しており、当該金額を親会社監査人・監査法人が監査をしている場合、子会社では監査人・監査法人が退職給付会計への監査手続きをする必要がなくなる場合があります。

 ・IT:監査人・監査法人が監査をするにあたって、システム評価をするケースがあります。この点、各会社が使用する会計システムを中心にシステム評価をしますが、グループで利用されているシステムを子会社でも利用している場合、グループ一括で監査人・監査法人がシステム評価をしているケースも多々あります。この場合、子会社においてはシステム評価をする必要はなく、グループ一括で行われたシステム評価の結果を子会社の監査人・監査法人が入手し、評価することで子会社の会計システムへの監査手続を最小限に抑えることができます。

 ・継続企業の前提:監査人・監査法人は監査意見(監査報告書)を出すにあたって、企業が将来も継続するかどうかの検討をします。通常は企業の事業継続性、将来性、資金力などをもとに継続企業の前提の評価をしますが、親会社の監査人・監査法人がグループまとめて継続企業の前提を評価している場合があります。この場合、子会社の監査人・監査法人は親会社が継続企業の前提の評価をしているため、当該評価を利用することで、子会社への継続企業の前提の評価を省略することがあります。

 以上となります。まだ他にも論点はありますが、上述した点だけでもかなり子会社へのリファーラル監査の考えが特有だけど監査の効率化ができるように感じるのではないでしょうか。リファーラル監査は通常の会計士監査とは異なり、しっかりとした理解と経験を有していないとドツボにハマる、適正な監査ができなくなる可能性がある危険な監査です
 弊所ではリファーラル監査を得意分野としています。何かございましたらお気軽にお問い合わせください。