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海外事業監査するのに基準はあるのか?

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2024年05月25日 | Column

さて今回のお題は“海外事業監査をするのに基準はあるのか?です。

 内部監査そしてここでは監査役監査も含めると考えます。このタイプの監査をするに際に重要な基準(法律も含める)となるものとして“会計基準”、“監査役監査基準”、そして“会社法”があげられる。

 海外事業監査をする会社は比較的大規模展開をしている企業も多く、その多くが会社法上の大会社(資本金5億又は負債総額200億円以上)となる。この点、大会社となれば会計監査人(公認会計士や監査法人)による財務諸表監査を受け、監査役は当該財務諸表監査の方法または結果の相当性を監査役が評価し、会社の会計監査を行うことになる。こと監査対象となる海外の連結子会社について進出先海外現地で会計基準にどう対応しているのか、監査役・内部監査の海外事業監査に大きな影響を与える。

 会計基準に関して、ご存の通り日本とアメリカ以外の多くの国ではIFRS(国際財務報告基準)が採用されているが、日本の親会社は日本基準を採用し、海外子会社はIFRSを採用するケースが多くみられる。この点について海外事業監査を行う監査役や内部監査人の監査視点として「会計基準の国際化に伴う企業への影響と監査役の実務対応」(公益社団法人日本監査役協会会計委員会による公表)にある「在外子会社の会計処理」が参考になる。

 現在、連結財務諸表は日本親会社と海外子会社の会計処理は原則親会社と統一されている。但し、IFRSや米国会計基準を海外子会社が採用している場合は、一部の修正必要な項目を除きそれを連結決算手続上利用することも認められている。具体的に海外事業の監査で会計(連結決算)に係る部分での着眼点は下記のとおりである。

・連結決算の会計処理方針の決定プロセスや連結修正に係る内部統制の整備状況が有効か
・IFRSや米国会計基準に通じたスタッフの整備と将来の変化に対するモニタリング体制は適切か
・グループ統一会計基準と海外子会社の属する国の差異を把握し、連結方針書等による文書化を行うと共に、同方針書が毎年更新されることを確認しているか
・経営管理のITシステムが共通化されているか、共通化されていない場合にグループ統一会計基準との調整をどのように行うのか、担当部署から聴取したのか
・会計監査人と連携し、連結財務諸表を作成するポイント(連結修正の範囲、明らかに合理的でない会計処理の修正、適用初年度の海外子会社の期首利益剰余金の修正等)について確認したか
・会計監査人が発行する海外監査人への「監査指示書(インストラクション)」の内容を確認したか
・新基準に関する執行部と会計監査人との打ち合わせ状況を確認したか

海外子会社を監査するにあたってはぜひ上記の点を参照されたい。

上記に加え、もう一つ海外事業の監査時に見落としてはならないのが、海外事業に関する親会社側の取締役の意思決定に関して、である。監査役監査基準においても取締役の善管注意義務履行について記載されており、特に“経営判断の原則(※)“について言及されている。海外関連事業となると”海外は特別だから“ ”日本内部の投資のように判断するのは難しい“ ”日本と同じ検討でも大丈夫“など海外事業を特別視するような雰囲気が取締役会に生じる可能性がある。この点、監査する立場として、監査役監査基準に定める5つの要件に従って取締役が海外事業に係る意思決定を行ったかを注視されたい。
5つの要件とは、事実認識、意思決定過程の合理性、法令準拠、通常の企業経営者としての判断、取締役と会社の利益相反取引の有無、である。

※経営判断の原則・・・取締役の善管注意義務履行の判断基準として、結果として会社に損害が生じたとしても意思決定のプロセスにおいていわば慎重であれば善管注意義務違反は認めないとの内容

以上、海外事業監査をする上で参考になれば幸いです。