さて今回のお題は“海外M&A時に内部監査をどう活かすか?です。
M&Aと内部監査という視点は中々聞くことがないと思います。M&Aを行うには、M&A実施前後で財務・法務・税務・ビジネス関係のデューデリジェンス(DD)が行われ、M&A後にはPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)が行われ、組織が動くにあたり、業務への支障がないこと、上手く統合していくこと、そしてシナジー効果が出るように様々なチェック、推進、整備が行われます。
これが海外M&Aとなったとしても大きく変わることはありません。但し、言語・文化・商習慣などで日本国内とは難易度が上がり、非常にタフなPMIを求められる傾向にあります。
そんな時に普段M&A時に登場しない内部監査が活躍します。是非上手く内部監査を成功するM&Aへ向けて活用して頂きたいです。特に海外M&Aは難易度もあがりますので、内部監査を利用することをおススメいたします。
具体的には、下記のポイントを踏まえて海外M&Aを成功に導きます。
①内部監査の統合
そもそもの内部監査体制を整備しておく必要があります。全社的な統合作業だけでなく、双方の内部監査の統合も重要です。統合前後でも内部監査機能は中断することなく継続すべきであり、内部監査のビジョン、方針、オペレーティングモデル、調書や報告書様式、利用ツールやテクノロジーなどのギャップを早急に調整する必要があります。海外M&Aともなると、買収先の内部監査チームと言語的に連携できそうか、また、内部監査レベル・能力・人柄など上手くキャッチアップし、One Teamとして内部監査チームを構築する必要があります。
② 情報システム(IT)
2つの会社が利用する情報システムをM&Aで統合するのか、並走していくのか、その他様々な情報をシステムで管理していくため、海外M&Aにおいては最も重要と考えられます。逆に言えば、成功の成否を左右すると言っても過言ではありません。M&A対象となる会社では大小数多くの情報システムが活用されていますが、それらのすべてについての互換性評価が重要です。システムの洗い出し、どのシステムでどんな情報をもっているか、オペレーション上のシステム利用における課題感など、内部監査がアジャイル的に監査を進め、不具合やM&A時に想定される懸念・課題を積極的に見つけ、マネジメントと現場へフィードバックすることが肝要です。
③ 会計処理・内部統制
PMIの一環として統合に向けた作業期間中、会計プロセスが一時的に中断し、財務報告に悪影響を及ぼす可能性があります。内部統制基本方針やコーポレートガバナンス体制についても統合前後で断絶すべきではなく、内部統制報告制度(J-SOX)の対応においては内部統制の文書化、整備評価、運用評価をやり直す必要が生じることもあります。ましてや、海外子会社を買収し、J-SOX導入となった場合は、そもそもSOXの概念がない国もあり、相当の労力と難易度が生まれます。内部監査を活用し、小まめに導入状況の確認、将来生じる可能性のある課題やリスクを検出し、マネジメントと現場にフィードバックしていくことが肝要です。
④ 統合日(Day 1)以降の統合作業の監査
M&Aにおける内部監査の貢献は統合日(Day 1)以降も継続します。特にPMIが計画通りに進捗しているか、新たな課題はないかという視点でPMI監査を実施することが期待されています。M&Aによるシナジー効果を最大限にしてM&A後の企業価値を向上させるためにもPMI監査は重要です。海外M&Aとなると頻繁に買収先にも訪問できないため、リモートでメール、電話、ウェブ会議など様々なコミュニケーションツールを利用して、そして、時差の問題を考慮しつつ、小まめにPMI監査を進める必要があります。
⑤ 3年後、5年後の統合作業の監査
筆者自身も経験がありますが、買収後に数年経った後にシナジー効果があったのか、買収後の社内プロセスやシステム統合がうまく出来ているか、について内部監査を通じて確認することは非常に大切です。特に、買収して数年ぐらいすると被買収先での人の入れ替わりがあったり、働く方のM&A後の印象や不満・満足しているところなど多くの情報を引き出すことができます。こういったM&A後のソフト的な情報をまとめて、マネジメントへ共有する、プロセスやシステム統合について現地オペレーション・本国マネジメントへ共有する、など、M&A後に数年経った後こそ内部監査の役割は重要です。
なお、上記のような海外M&Aにおける内部監査の活用については下記の本がイメージするのに役立ちます。小説風に書かれており、是非ご一読頂きたい本になります。