さて今回のお題は“海外子会社のガバナンス、どうやる?です。
前回のコラムでは海外子会社のリスク管理について記載いたしました。今回は、“ガバナンス”です。
“ガバナンス”という言葉はビジネス業界ではここ最近耳にする頻度が増えたと実感されている方も多いのではないでしょうか。東証に上場する会社については「ガバナンス・コード」という市場に上場するにあたってコンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or explain)ということが求められるコードが設定されています。
そもそもガバナンスは、組織を適切に管理し、目的を達成するための枠組みやプロセスを指す概念であり、主に企業ガバナンス(コーポレートガバナンス)として、企業が透明性・公平性・責任を持って運営されるための体制や仕組みとして用いられています。
海外子会社のガバナンスは、法規制の遵守、リスク管理、そして現地のビジネス文化への対応が絡む複雑な領域です。以下、一般的なガバナンスのポイントと注意点をまとめました。是非チェックリストや海外子会社のガバナンスに関する抜け漏れ確認としてご利用ください。
- 基本的なガバナンス体制の整備
- 取締役会の構成と役割:日本の本社から役員を派遣することが多いですが、現地の法規制や経営環境を踏まえ、現地取締役を含めたガバナンス体制を整えることが望ましいです。ここ10年ぐらいで現地子会社の役員を現地取締役だけで固めるケースが増加しましたが、これはリスクを伴います。日本親会社からの牽制・コントロールが効くように、日本人の取締役をバランスよく配置することを推奨します。
- 内部監査:本社からの内部監査部門の派遣や定期的な監査の実施で、現地の実態把握と監視体制を確立することが効果的です。コロナ禍でリモート(現地訪問無し)監査が急増しましたが、コロナが落ち着いた今、必ず現地に足を運び、現地監査を実施することを推奨します。
- コンプライアンスと法的リスク管理
- 現地法規の遵守:各国で異なる法規制や会計基準に対応するため、現地の法務・会計の専門家との連携が重要です。特に、労働法や環境規制などが頻繁に改定される地域では注意が必要です。
- 腐敗防止・倫理規定:贈収賄防止や倫理規定の徹底が必要です。特に新興国での商習慣として「お礼」や「贈与」が存在する場合、慎重な対応が求められます。時に大規模な違法やグループとしての方針に沿わない贈収賄がある場合、コンプライアンス違反として、評判の失墜やともすると業績悪化にもつながる危険があります。
- 現地のビジネス文化・人材との調和
- 現地スタッフの育成と任用:ガバナンスの実効性を高めるために、現地スタッフのリーダーを育成し、本社との橋渡し役として任用することも効果的です。
- 文化理解とコミュニケーション:現地文化やコミュニケーションスタイルへの理解がないと誤解や摩擦が生じる可能性があるため、現地スタッフやパートナー企業との積極的な関係構築も重要です。
- リスクマネジメント
- リスク評価の継続的な見直し:海外では政治リスク、経済リスクが変動しやすいため、定期的なリスク評価と対策の見直しが必要です。リスクの兆候を察知するため、現地に常に敏感な体制を築くことが大切です。
- 情報共有と報告ルール:本社と子会社の情報共有を促進し、異常事態が発生した場合の報告ルールを明確にしておくことが重要です。
- デジタルガバナンスの導入
- ITインフラの統合:本社と海外子会社間で共通のデジタルインフラやシステムを利用することで、迅速な情報伝達と管理が可能になります。
- データセキュリティ:各国で異なるデータ保護法(GDPRや中国でのデータ越境など)に準拠しながらも、データ漏洩やサイバー攻撃のリスク管理を徹底することが必要です。
海外子会社ガバナンスの勘所
- 現地の法規制とコンプライアンス:法規の変化に対するアンテナを張り、柔軟に対応する。
- 本社とのコミュニケーションルートの確立:重要な決定は事前に本社と共有し、透明な報告体制を築く。
- 柔軟かつ多文化対応の姿勢:現地の文化やビジネス慣習に応じて柔軟に適応しつつ、根幹のガバナンス基準は維持する。
こうしたポイントに加え、現地の変化やニーズに対応する柔軟なガバナンスアプローチを採用することで、長期的な経営安定を図ることができます。
海外子会社のガバナンスについては成功事例よりも“失敗”事例を見ておくことが海外ビジネスを行う上での転ばぬ先の杖になります。このような内容を取り扱った下記の書籍が非常に役立ちます。ガバナンスの機能不全を含めた12の失敗事例をもとに小説風に書かれており、是非ご一読頂きたい本になります。