000-000-0000

上場準備で見落とされる「内部監査」の本質

ホーム » Column » 上場準備で見落とされる「内部監査」の本質

2026年02月14日 | Column

2026年1月に日本取引所自主規制法人こと東京証券取引所から「内部統制強化・不祥事予防に向けたハンドブック」がリリースされました。

—形式から実質へ、審査を超える体制構築—

上場準備の落とし穴—「審査クリア」が目的化するリスク

「主幹事証券の指導通りに整備すれば大丈夫」——多くの上場準備企業がこう考えています。しかし、2026年版ハンドブックが示す厳しい現実は、上場審査をクリアした企業でも、上場後に内部統制が脆弱化し、重大な不祥事を起こしているという事実です。

上場準備期に管理部門を統括していた責任者が上場後に離職する、業績プレッシャーにより「守り」が後回しになる——こうした「上場後の緩み」が、内部統制の形骸化を招きます。内部監査支援を提供する私たちが最も危惧するのは、審査対応としての「形式的な体制整備」に終始し、上場後も機能し続ける「実効性ある内部監査」が構築されていないことです。

上場準備企業が陥る5つの内部監査の致命的欠陥

【欠陥①】「一人内監」と兼務体制—リソース不足の構造的限界

中堅・新興企業で最も多いのは、内部監査担当者が1名のみ、あるいは他部署との兼務という体制です。上場審査では「内部監査部門が存在する」ことは確認されても、その実効性までは精査されません。結果、J-SOX対応だけで手一杯となり、本来の「第3線」としての業務監査や不正検知機能が機能不全に陥ります。

典型的な失敗例:

  • 経理部長が内部監査責任者を兼任し、自部署を自己監査する状態
  • 監査計画が形式的チェックリストの消化に終始
  • グループ子会社への監査が未実施

【欠陥②】独立性の欠如—「社長にしか報告しない」危険性

内部監査部門が社長直轄のみで、取締役会や監査役会への直接報告ラインがない体制は、経営トップによる不正を構造的に見逃します。上場準備期は創業者CEOの権限が強い企業が多く、「社長の指示に逆らえない」組織風土では、内部監査は形骸化します。

必須要件:

  • デュアル・レポーティングライン: 社長と監査役会の両方に報告
  • 身分保障: 人事評価への監査役会の同意権付与

【欠陥③】管理部門の専門性不足—「上場企業基準」への誤解

上場準備中は証券会社や監査法人の指導で乗り切れても、上場後は自走が求められます。連結決算、税効果会計、収益認識基準、関連当事者取引の適正性判断——これらを理解できる専門人材が社内に不在のまま上場すると、後に致命的な会計誤謬や開示ミスを引き起こします。

推奨施策:

  • 上場企業経験者・公認会計士等の専門家採用
  • 外部コンサルタントとの継続的アドバイザリー契約
  • CFOの身分的独立性確保(指名報酬委員会の関与)

【欠陥④】業務の属人化—「創業メンバー任せ」の危険

創業初期から特定の役員・従業員が担当し続けている業務は、ブラックボックス化しやすく、不正の温床になります。特に、営業と検収を同一人物が担当、経費精算の自己承認、特定顧客への長期担当——これらは上場審査でも指摘されますが、実務レベルでの運用が徹底されていないケースが多発しています。

具体的対策:

  • 職務分掌の物理的分離(申請・承認・執行・印影管理)
  • ローテーション制度(同一担当上限5年)
  • デジタル化によるExcel手作業の排除(ERP導入)

【欠陥⑤】グループ子会社管理の空白—「任せている」という放置

上場時点で子会社を持つ企業は特に注意が必要です。親会社の内部監査が子会社まで及んでいない、子会社取締役会議事録が親会社に提出されない、関連当事者取引のチェックが甘い——これらは上場後の重大な不祥事に直結します。

最低限の要件:

  • 親会社内部監査部門による子会社の直接監査
  • 子会社議事録の毎月提出と親会社取締役会での検証
  • グループ横断的な内部通報制度の整備

上場準備段階で構築すべき「第3線」の最低要件

【要件①】組織体制:専任・独立・報告ラインの複線化

  • 専任の内部監査室を設置(兼務禁止)
  • 社長と監査役会へのデュアル報告
  • 重要会議(取締役会・経営会議)への出席権

【要件②】人員:規模に応じた適正配置と専門性

  • 目安: 連結売上100億円未満でも最低2名体制
  • CIA(公認内部監査人)やCPA(公認会計士)等の資格保有者または上場企業経験者
  • 外部専門家との協働体制(アウトソーシング/アドバイザリー)

【要件③】監査手法:リスクベースアプローチへの転換

  • J-SOX対応に留まらない業務監査・会計監査の実施
  • 「発生可能性×影響度」によるリスク評価とリソース配分
  • 財務会計領域、関連当事者取引を重点監査項目に設定
  • フォローアップ監査の徹底(改善完了まで追跡)

【要件④】連携:三様監査の実質化

  • 監査役・内部監査・会計監査人の四半期定例会
  • 社内情報へのアクセス権限(共有フォルダ・会計システム)
  • 会計監査人の指摘事項を内部監査計画に即座に反映

上場審査を「ゴール」ではなく「スタート」にするために

上場審査で求められるのは「体制が整備されていること」ですが、市場が求めるのは「体制が機能し続けること」です。形式的な規程や組織図ではなく、実際に不正を検知し、改善を促す内部監査が存在するかどうかが、上場後の企業価値を左右します。

実効性チェックリスト(上場準備企業向け):

□ 内部監査担当者は専任で、監査以外の業務を兼務していない
□ 内部監査結果を監査役会・取締役会に直接報告している
□ 過去1年で内部監査による実質的な指摘が複数件ある
□ CFOは代表取締役から独立した人事評価を受けている
□ 管理部門に上場企業経験者または会計専門家がいる
□ 子会社への内部監査を年1回以上実施している
□ 関連当事者取引を取締役会で事前承認している
□ 内部通報制度に外部窓口があり、周知されている
□ 監査役・内部監査・会計監査人が四半期ごとに情報交換している
□ 業務プロセスがデジタル化され、Excel手作業に依存していない

10項目中7項目以上にチェックが入らない場合、上場後の体制脆弱化リスクが高いと判断されます。


おわりに—内部監査は「コスト」ではなく「リスク回避投資」

上場準備企業の経営者は、IPOという大目標の達成に向けて膨大なリソースを投入します。しかし、上場がゴールではなく、上場後の持続的成長こそが本当の勝負です。

内部監査への投資を「審査対応コスト」と捉えるか、「企業価値毀損を防ぐ保険」と捉えるか——この認識の違いが、上場後の明暗を分けます。私ども森大輔公認会計士事務所 – SMASH & Partnersでは、上場準備段階から「上場後も機能し続ける第3線」を構築し、クライアント企業の持続的成長を支援します。上場準備にあたって、どうやって内部監査を構築して良いのか分からない、コストを抑えつつも上場に耐える内部監査体制を構築したい、J-SOX評価も併せて支援してほしい、リソース不足で内部監査やJ-SOX評価に手が回らないなど、お悩み・課題があればいつでもお気軽に弊社までご相談ください。


執筆者プロフィール
森 大輔 (公認会計士・公認不正検査士・認定IPOプロフェッショナル)
国内外市場への上場準備企業の内部統制構築・内部監査体制整備を数多く支援