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米国ナスダック上場:S-1とF-1の違い【後編】

前編ではF-1の基本と財務諸表の要件について解説しました。後編では、実際のプロセスと、日本企業が活用できる制度上の優遇措置について見ていきます。 

IPOの流れを大まかに整理するとこうなります。

まず主幹事証券会社(アンダーライター)を選定し、財務・法務のデューデリジェンスと並行して会計基準のコンバージョン作業を進めます。日本基準からUS GAAPまたはIFRSへの組み替えは、単なる数字の置き換えではなく、収益認識や固定資産、リースなど会計処理の考え方から見直す必要があり、想定以上に時間を要することが多いです。 

アンダーライターの選定は、IPOの成否を左右する最重要の意思決定のひとつです。単に知名度や規模で選ぶのではなく、自社の業種・規模に対する引受実績、日本企業の米国上場支援の経験、そして上場後も継続してカバレッジを提供してくれるアナリストの存在が重要な選定基準になります。日本企業の場合、米国の機関投資家へのアクセスが限られるため、アンダーライターの投資家ネットワークの質が資金調達額に直結します。また複数の証券会社にブックランナーを依頼するケースも多く、それぞれの役割分担と手数料交渉も重要な実務です。選定が遅れるとスケジュール全体が後ろ倒しになるため、準備の早い段階からアプローチを始めることが求められます。 

また、F-1に添付する財務諸表はPCAOB(米国公開会社会計監視委員会)基準に準拠した監査法人による監査が必要です。日本の監査法人がそのままPCAOB監査を担えるケースは限られており、PCAOB登録済みの監査法人への切り替えや、共同監査の体制を早めに検討しておく必要があります。 

これらの準備を経てF-1を提出し、SECとのコメントのやり取りが完了すると、いよいよロードショーに入ります。ロードショーとは、上場前に機関投資家(ファンドマネージャーやアナリスト)を回り、会社のビジネスモデルや成長戦略を説明する活動です。通常2週間程度、ニューヨークやボストン、サンフランシスコなど主要都市を巡り、1日に5〜8件のミーティングをこなすことも珍しくありません。投資家からはビジネスの競合優位性、収益モデルの持続性、経営陣の経験と資質、財務数値の根拠などについて鋭い質問が飛びます。特に日本企業はストーリーの組み立てが弱いと指摘されることが多く、「なぜ米国市場で資金を調達するのか」「日本市場との違いは何か」という問いに対して明確に答えられる準備が不可欠です。ロードショーでの反応を踏まえて需要を確認し、公開価格を決定。クロージングで資金を受領してIPO完了となります。 

ここで日本企業にとって朗報があります。FPI(外国民間発行体)として認定されると、国内企業より開示負担の軽い扱いを受けられます。たとえば役員報酬の個別開示が不要であること、四半期報告が義務ではないことなどが主な違いです。さらにEGC(新興成長企業)に該当すれば、SOX監査の免除をはじめとする追加の緩和措置も受けられます。FPIとEGCを組み合わせることで、上場時の負担を大幅に抑えられる可能性があるのです。

ただし、上場はゴールではありません。上場後も20-F(年次報告書)や6-K(臨時報告書)の継続提出義務が生じ、内部統制の整備、英文開示の対応、海外投資家へのIR活動が続きます。F-1の提出は、長い道のりのスタートラインに立つための手続きにすぎないのです。  どのルートで上場するか、財務諸表をどの基準で組み直すか、PCAOB対応をどう進めるか——判断すべき論点は多岐にわたります。

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