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【米国上場実務】米国上場準備中の広報とガン・ジャンピング規制 — 英文プレスリリースは「勧誘」になるか

「上場へ」の一報が問題になる国

日本では、IPOの準備を進めている企業がメディアの取材に応じたり、経営者が講演で将来の展望を語ったりすることは珍しくありません。しかし米国では、登録届出書の効力発生前に証券の「申込み」や「勧誘」にあたる情報発信を行うことは1933年証券法5条で禁止されており、これを逸脱する行為はガン・ジャンピング(Gun Jumping)と呼ばれます。

3つの期間で変わる制限

  • Pre-filing Period(届出前):証券の売付け・買付けの申込みは一切禁止。通常の事業広報(新製品の案内など、従来から定期的に行っている事実情報の発信)はセーフハーバーで認められますが、上場や資金調達に触れる発信、将来予測を強調する発信は避けます。適格機関投資家等への「テスト・ザ・ウォーター」は、2019年以降すべての発行体に認められています。
  • Waiting Period(公開提出〜効力発生):口頭による勧誘やロードショーは可能ですが、文書による勧誘は目論見書(または所定のフリー・ライティング・プロスペクタス)に限られます。
  • Post-effective Period(効力発生後):販売活動は可能になりますが、目論見書の交付・利用に関するルールは引き続き適用されます。たとえば、非報告会社のIPOで証券が取引所に上場される場合、Rule 174上、ディーラーに原則25日間のアフターマーケット目論見書交付義務が問題となります。具体的な義務は当事者の立場や取引形態によって異なります。

違反した場合、登録届出書の効力発生が遅れる、問題となった情報発信について追加対応を求められる、取引の態様によっては投資家の救済権やSECによる執行リスクが生じるなど、上場スケジュールと法的責任の双方に影響し得ます。発信時期・内容・媒体によって評価が変わるため、米国証券弁護士による個別判断が重要です。

日本企業に固有の落とし穴

第一に、日本語の情報が英語に翻訳されて米国投資家に届く経路です。国内向けのプレスリリース、業界紙の取材記事、経営者のSNS投稿やYouTube、展示会でのプレゼンテーションは、翻訳されれば米国での「文書による勧誘」になり得ます。第二に、すでに東証に上場している企業の場合、適時開示(TDnet)で開示した内容が英文6-Kや目論見書の記載と整合していなければ、それ自体が問題になります。第三に、「ナスダック上場を目指す」という報道が国内で先行するケースです。話題性は高いのですが、米国側の弁護士が最も嫌う展開でもあります。

実務的な対策

上場準備に入った時点で、広報・IR・経営者の対外発信を一元的にレビューする窓口を設け、米国証券弁護士のチェックを経る運用を決めておくことです。「言わない」のではなく、「登録届出書に書いてあることと同じ内容を、同じトーンで言う」のが原則になります。会計の数字については、目論見書に含まれる監査済財務諸表と異なる数値や予測を社外に出さないことが鉄則です。

FPI企業への適用・影響

【直接適用】Securities Actのガン・ジャンピング規制はFPIによるForm F-1/F-4の募集にも関係します。日本国内向けの広報であっても、米国募集との関係や到達可能性を踏まえて証券弁護士のレビュー対象にすることが重要です。

参考:Securities Act of 1933 Section 5、Rules 163A・163B・168・169、SEC Division of Corporation Finance「Compliance and Disclosure Interpretations: Securities Act Rules」

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執筆者:森 大輔(公認会計士・公認不正検査士)

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